俳優佐藤輝エッセイ「季語のある日々」11.28捨てる神あれば・・・
佐藤輝のエッセイ「季語のある日々」
2006年4月から2007年3月まで1年間にわたって山形新聞に連載。

2006年4月4日 ベランダは山形に地続き 4月18日 サンチョの生みの親-(上) 5月2日 サンチョの生みの親-(下)
5月16日 草笛を吹いたころ 5月30日 もみじ若葉の小倉山 6月13日 蒼き雨降る梅雨の入り
6月27日 二人のテルアキ 7月11日 星に願いを 7月25日 アクア・スプラッシュ 8月8日 夏の故郷
8月22日 夏草や・・・ 9月5日 一期一会の虫の夜 9月19日 高きに登る 10月3日 歳時記 10月17日 美しい日本 
10月31日 再生 11月14日 俳優への第一歩 11月28日 捨てる神あれば・・・ 12月12日 山茶花の散るや・・・
12月26日 一陽来復 
2007年1月9日 演劇の神様 1月23日 見果てぬ夢 2月6日 寒い朝 2月20日 暖冬に思う、寒さかな
          
3月6日 ハポンのサンチョ 3月20日 卒業
 
  

    2006.11.28掲載 捨てる神あれば・・・
     
 捨てる神あれば・・・

              佐藤 輝

 三の酉となって、今年も残り1カ月。
 気弱なペンギンがいるのを知ったのは、先日久しぶりに行った葛西臨海公園。東京湾に面して広い人工砂浜があり、マグロとカツオの大群が泳ぎ回る巨大水槽で有名な、都立水族館もこの中にある。
 水族館に入ると、ちょうどペンギンの食事時間。フンボルト、イワトビ、それにネットで仕切られてフェアリーと、3種類のペンギンが187羽。飼育係がバケツのアジを一気に水槽に放り込む。フンボルトペンギンの群が一斉に餌を追って水中に潜った。次に、見物の親子連れが「かわいいー、子供ペンギンだ」と喜んで指をさしているフェアリーペンギンへ給餌がはじまった。子供ペンギンのように見えるが、これで成鳥。ところが、このペンギンたちは少し離れた場所から遠巻きにして餌を眺めているだけ。説明では「オーストラリア南部にすむフェアリーペンギンは、野犬などに襲われた歴史の記憶を持ち、自分たちの弱さを知っているので、神経質で気が弱い。それで客から見える所ではあまり食べない」のだという。飼育係が岩陰で餌をやると、一斉に食べ始めた。
 小沢昭一さんや宇野重吉さんなど、泥芋のような存在感のある俳優が好きだった僕は、高校卒業と同時に俳優を志して意気揚々と上京し、自分の好みにぴったりの泥臭い劇団に入った。ところが上京2年目、僕の初舞台となる1965年秋の新人公演に向けた稽古(けいこ)で、僕は若い演出家に、自分の存在まで否定されるようないじめにあった。
 「目がとろんとして輝きがない」から始まって、「セリフがなまっている」など、すべてを否定される。大阪出身の先輩から教えてもらった大阪弁のセリフのイントネーションまでを「それは山形弁だろう」と断定される始末。理由は分からないが、その後に出会った演出家とくらべても、演技指導や演出の域を超えるものだった。それでも自分には「天狗の子」でもらった熱い拍手がある。感動したと喜んでもらえたジャン・バルジャンがある。あの時のように、僕を見て喜んでくれる人がきっといるはずだと思いながら、他人の稽古を見て、少しでも自分のプラスになることを学ぼうと、地獄のような稽古場に通った。それが2年続いた。
 劇団が地方公演をしている間、東京に残っている僕たちのために特別講座が開かれた。講師の関矢幸雄さんがどんな人なのか、僕たちは誰も知らなかった。彼は当時流行の「タブー」や「キャラバン」のレコードをかけて、音楽に合わせて自由に動き回れと言う。リアルな演技を教えられている僕たちにとっては、最も不得意なことだった。
 みんなの動きを見ながら、関矢さんは即興で物語を構成し、役をつけていく。気がつくと、僕は物語りの主人公を演じていた。終ると関矢さんは僕に向かって「キミ、なかなか面白いよ」と一言。僕を「なかなか面白いよ」と言ってくれる人がいた! 「地獄に仏」とはこのことだ。
 当時僕たちは、商業演劇は別の世界だと思い、知らずにいたが、関矢さんは東宝ミュージカルや日劇のショーなど多くにかかわっているトップの振付・演出家だったのだ。プロのトップが僕の存在を認めてくれた。これで僕も俳優として生きていける、この世界でやっていける、と自信を持った。そして、音楽と体の動きで表現する新しい世界を知った。

  屋台酒なみなみうけて三の酉  輝

写真タイトル
福を呼び込む熊手を求めて参拝客が押し寄せる東京・千束の鷲 (おおとり)神社(筆者撮影)

          2006.11.28 掲載分



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