俳優佐藤輝エッセイ「季語のある日々」9.5 一期一会の虫の夜
佐藤輝のエッセイ「季語のある日々」
2006年4月から2007年3月まで1年間にわたって山形新聞に連載。

2006年4月4日 ベランダは山形に地続き 4月18日 サンチョの生みの親-(上) 5月2日 サンチョの生みの親-(下)
5月16日 草笛を吹いたころ 5月30日 もみじ若葉の小倉山 6月13日 蒼き雨降る梅雨の入り
6月27日 二人のテルアキ 7月11日 星に願いを 7月25日 アクア・スプラッシュ 8月8日 夏の故郷
8月22日 夏草や・・・ 9月5日 一期一会の虫の夜 9月19日 高きに登る 10月3日 歳時記 10月17日 美しい日本 
10月31日 再生 11月14日 俳優への第一歩 11月28日 捨てる神あれば・・・ 12月12日 山茶花の散るや・・・
12月26日 一陽来復 
2007年1月9日 演劇の神様 1月23日 見果てぬ夢 2月6日 寒い朝 2月20日 暖冬に思う、寒さかな      
     
 
3月6日 ハポンのサンチョ 3月20日 卒業
  
 
     2006.9.5掲載 「一期一会の虫の夜」
 一期一会の虫の夜
 
                       佐藤 輝

 先週の土曜日、NHKの「俳句王国」にゲスト出演した。初めて出演したのは7年前、今度が9回目となる。
 この番組は、近代俳句の祖・正岡子規が生まれ育った四国・松山に、全国各地から5人の俳人が集まり、スタジオで句会を楽しむ番組。毎回違ったプロの俳人が句会をまとめる主宰となり、それにゲストが加わる。今回の主宰は「狩」同人の片山由美子さん。出演者みんなが初対面で、お互いの俳句を選び、評し合った。まさに一期一会のぶっつけ本番。
 全参加者の俳句を目に出来るのは、本番が始まる10分前。作者名の無い、俳句だけが順不同に印刷された紙を渡され、その中から自作の句以外で良いと思う2句を選んで読み上げ、披講する。誰が作った俳句かなどと推測している暇は無い。これが句会本来の真剣勝負の醍醐味。全員の披講の後で、高得点句から順に評し合い、終ると作者が名乗り出る。会は実に民主的。兼題の「虫」と風の盆の句作で秋に浸り、一期一会の句会を楽しんだ。
 生で演じられる舞台も同じ一期一会の世界。
 1961年以来45年間、森光子さんが作家の林芙美子を演じ続けてきた「放浪記」が、4日の帝劇で上演回数1800回を記録した。現代劇の主演回数としてはダントツの記録、それも86歳という年齢を考えると驚異的な記録だ。
 数年前にもその舞台を観(み)た。喜びの余りふとんの上ででんぐり返りする場面で、それだけを目当てに見に来ているかのような、妙な期待感と緊張感が客席に漂ったのには戸惑った。それも話題の一つだろうが、作品全体を通して丁寧に演じている森光子さんのプロ意識に僕は共感する。
 今年も、大リーグのイチロー選手の活躍は楽しく、爽快。これこそプロの技、プロ意識の結晶と尊敬している。才能はもちろん、開花させた努力と、そのレベルを維持するための毎日の技術的精神的努力は計り知れない。
 客の立場に立ってこそ商売が成り立つと、プロ意識に徹したスーパーマーケットが近所にある。一昨年の夏の盛りに、そこで青々とした葉の付いたエシャロットを1束買った。さて食べようと葉を巻いているビニール帯を切った途端、折り畳んだ葉のかたまりがばさりと落ちた。手には茶色に変色した軸を10センチほど付けたエシャロット本体。エシャロットの茶色に変色した軸を、全く別の植物の葉で包んでいたのだった。これは飾りだったのか、カモフラージュだったのか。驚いた。
 初めから茶色に枯れた軸が見えていても買うものは買う、嫌なら買わない。どっちにしても納得出来るのに、どうしてこんな手間暇かけて、結局は買い手を欺くようなことをするのだろうと思い、このことを店長に話した。
 その後、しばらくしてその売場に行って見ると、エシャロット本体だけを1束づつビニール袋に入れて売っていた。軸も白く新鮮で、見せかけだけの葉は付いていなかった。

   ふるさとの闇の深さや虫時雨  輝

【出演情報】▽NHK衛星第2「俳句王国」ゲスト。16日午前11時-11時50分。兼題「子規忌」。▽TBS系「水戸黄門」小浜の廻船問屋番頭・吾助役。18日 午後8時-8時54分。

               2006.9.5掲載分

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