坂東三津五郎さんを悼む 2015.2.25
俗も雅も通夜舟ひとつ蝉時雨 輝
2012年8月に、新宿紀伊国屋サザンシアターで三津五郎さんの一人芝居と言うべき『芭蕉通夜舟』(井上ひさし作、鵜山仁演出)を堪能し、楽屋を訪ねて感想を述べさせていただいのが直接お目にかかった最後になってしまった。
最後の場面、芭蕉の棺を載せて川を下る舟の船頭となって語る三津五郎さんは、それまでの三津五郎カラーを見事に脱いで生活感に溢れた「俗」のエネルギーを見せてくださった。
これから句会に行くとおっしゃる三津五郎さんに僕は即興の一句を献じた。
俗も雅も通夜舟ひとつ蝉時雨 輝
本当に、これからこそ歌舞伎界を背負って行く重鎮になる俳優だったのに! !
惜しく、悔しい! !
輝 ☆彡 2015.2.25
『石川五右衛門』公演 2014.7.28
楽の夜の明くれば街の蝉時雨 輝
楽(らく=千秋楽)
ほおずきの色づく頃や劇場(こや)に入る 輝
越中八尾おわら風の盆 2013.9.5
坂のまちゆるりのぼりて風の盆 輝
ぼんぼりの先は闇なり風の盆 輝
漆黒の闇より聞こゆ風の盆 輝
おわら唄闇の先から流し来る 輝
ネジバナ 2013.6.27
のぼりゆくガウディの夢をねじり花 輝
蝉時雨 2012.8.13
今年は中々蝉の鳴声が聞こえてこなくて、去年の福島原発事故の影響があったのかと心配していたが、7月27日になってようやく近くの桜並木から、ジィと短い一鳴きが聞こえてきて安心した。
その日、僕は初めて首相官邸に向けた原発再稼働反対の叫びに声を合わせた。
初蝉や原発阻止を叫びたり 輝
別の日、昼近くになってバルコニーに出ると、足を出そうとした先のウッドデッキで蝉が見上げていて、あわてて足を止めた。
優しく声を掛けてやると、まるで返事をしたかのように右の前脚を小さく持ち上げて、かすかにジィと声を出した。
今日は桜並木を通ると、たくさんのジィ〜〜〜ジィ〜〜〜の中に所々ミィ〜〜ンミィ〜〜ンが主張している。上からは降り下からは渦を巻くように沸き上がる蝉時雨に包まれて、蝉のトンネルを通っているほどの賑やかさだった。それに呼応するように、バルコニーでも二匹の蝉が、はっきりと高らかに、自分の季節を謳歌していた。
謳歌せよおのれが季節(とき)を蝉時雨 輝
梅雨の晴れ間に 2012.7.13
夏雲やスカイツリーのその上の 輝
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龍野の城に三七子句碑
2007年9月23日、そうめん「揖保(いぼ)の糸」や「夕焼け小焼けの赤とんぼ」の作詩者・三木露風の出身地として知られる兵庫県たつの市の龍野城公園で、一昨年亡くなった俳人・加藤三七子さんの句碑除幕式があり参列した。
『ラ・マンチャの男』を歌う佐藤 輝。
句碑が素晴らしい。建った場所もステキなロケーションだ。この句碑も龍野の新名所になるに違いない。
どっしりと重みのある句碑は、既にこの土地に根を生やしているように落ち着いている。が、石の冷たさはなく、とても親しみとぬくもりを感じさせる形と色だ。童女のように気さくだった三七子さんのお人柄にぴったりで、見ていると三七子さんの生前のお姿がダブって見えてくる、素晴らしい句碑。
碑文は、三七子さんが色紙に書いた
朧銀の水のめぐりて初ざくら 三七子
を写したやわらかで美しい文字が刻まれている。
参列者が代わる代わる句碑をなでている。訪れた人が、自然になでたくなるほど親しみを感じさせる句碑は三七子さんにふさわしい。
龍野城の門(埋門 うずめもん)をくぐって左の広くゆるやかな石の階段を登りきった左に、「県立龍野高等女学校跡地」の石碑が建っている。ここは三七子さんが青春時代に学び、感性をはぐくんだ学校の跡地。女学校時代に恩師から短歌を学び、和泉式部の恋の歌に目覚めたと聞く。句碑建立の場所として、これ以上のうってつけの場所はない。句碑が既にこの土地に根を生やしているように落ち着いて見える理由がわかった。
高等女学校跡地の石碑と句碑のすぐ奥には枝垂れ桜があり、二つの碑を抱きかかえるように枝を広げている。白い城門と白壁を背景に、美しい花が咲くという。
初ざくらの頃に、三七子さんに会いに、この句碑を訪ねたいと思った。
三七子さんが亡くなったのは一昨年4月5日。この城の広場が桜満開の頃。
毎年、4月5日にはこの句碑の前で、桜の花の下で「三七子・桜忌」の集いと句会が開かれる。そんなことも夢ではないように思う。
左から佐藤 輝、三木豊晴さん、西田正則たつの市長、多田周子さん、米澤千恵子さん、山田弘子さん。
除幕式には西田正則たつの市長はじめ、三七子さんの長女・米澤千恵子さん、三木露風子息の三木豊晴さん、日本伝統俳句協会理事で円虹主宰の山田弘子さん、関東から駆けつけた人も含めて三七子さんが主宰した黄鐘の門弟が80名など、150名近い参列者があり、全員で「おかえりー 三七ちゃーん
!」の掛け声と共に紅白の綱を引いて除幕した。
句碑除幕の瞬間。喜びの瞬間。中央奥に佐藤 輝の笑顔。
三七子さんの後輩で、昨年兵庫国体閉会式で「赤とんぼ」を独唱した声楽家の多田周子さんが、「赤とんぼ」「揖保川」「ふるさとの」の3曲を艶のある伸びやかなソプラノで歌い、句碑に詩の魂を吹き込んだ。
続いて僕が、三七子さんがご存命ならば来年4月の帝劇でも聞いてもらいたかった『ラ・マンチャの男』のドン・キホーテとサンチョの歌を一人で歌い、NHK「俳句王国」ゲスト出演がきっかけて三七子さんが他の出演者に呼びかけて作って下さった僕のファンクラブ「サンチョの会」の楽しかったエピソードを披露した。
俳優の数ある中で、俳人にファンクラブを作ってもらったのは僕一人ぐらいなものだろう。他に、そんな話は聞いたことがない。
スピーチの最中に、「赤とんぼ」の歌に誘われたかのように会場を飛んでいる赤とんぼを見たので、最後に即興で詠んだ俳句をお祝いの献句とした。
色めきて三七子の句碑の赤とんぼ 輝
この参列者の中には、三七子さんと一緒に『ラ・マンチャの男』や『天国から来たチャンピオン』を観劇して下さった『黄鐘』同人も。式後に佐藤 輝と久しぶりの再会を喜んだ。
1999年5月29日放送 NHK「俳句王国」スタジオで、佐藤 輝と加藤三七子さん