■佐藤輝のエッセイ「季語のある日々」
2006年4月から2007年3月まで1年間にわたって山形新聞に連載。
2006年4月4日 ベランダは山形に地続き 4月18日
サンチョの生みの親-(上) 5月2日
サンチョの生みの親-(下)
5月16日 草笛を吹いたころ 5月30日
もみじ若葉の小倉山 6月13日
蒼き雨降る梅雨の入り
6月27日 二人のテルアキ 7月11日
星に願いを 7月25日
アクア・スプラッシュ 8月8日 夏の故郷
8月22日 夏草や・・・ 9月5日
一期一会の虫の夜 9月19日 高きに登る 10月3日
歳時記 10月17日
美しい日本
10月31日 再生 11月14日
俳優への第一歩 11月28日 捨てる神あれば・・・ 12月12日
山茶花の散るや・・・
12月26日 一陽来復
2007年1月9日 演劇の神様 1月23日
見果てぬ夢 2月6日
寒い朝 2月20日 暖冬に思う、寒さかな
3月6日 ハポンのサンチョ 3月20日
卒業
2006.7.25掲載 「アクア・スプラッシュ」
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アクア・スプラッシュ
佐藤 輝
俳優の日常生活は一般の人には想像しにくいようで、トレーニングで一緒になった人から「今日はお休みですか?」などと声をかけられる。劇場やテレビに出演していない時、俳優は暇で、ただ遊んでいるだけだと思っている人が多いようだ。「これも仕事の一つで」と答えると、相手はけげんな顔をする。
他の職業と違い、俳優は、次の仕事のための準備の時間も大事な仕事。その時間の過ごし方が、30代で消えてしまう俳優と、70、80まで現役でいられる俳優をつくる、と言っても過言ではない。
俳優は肉体労働者。スポーツ選手同様に、トレーニングは必要不可欠な大事な仕事だ。
毎日の第1の日課は発声練習。ウォーミングアップの後、15分ほどのヴォイストレーニングだ。それから「ラ・マンチャの男」で歌うサンチョの5曲のソロや「サンライズ・サンセット」なども練習する。
第2の日課は近くのフィットネスクラブで、ジャズダンスと、プールでのアクアエクササイズ。
アクアエクササイズの基本は水中ウォーキング。クラスによっては派手なジャンプ、水しぶき(アクア・スプラッシュ)を上げながら空中に脚を蹴り上げて腹筋運動もする。週4日、30分から45分のクラスを1日で2、3クラス受けている。
サンチョでは足腰に負担の多い傾斜した舞台を走り、木下順二作「子午線の祀り」の伊勢三郎では段差の大きな階段を素早く上り下りしている僕だが、実は俳優として再起不能かと思われる大けがを負い、それをプールでのトレーニングによって克服した経験を持っている。
「ラ・マンチャの男」再演を1年後に控えた10年前、ジャズダンスのレッスン中に右膝を故障。1歩踏み出すごとにゴキンと音をたてて激痛が走り、膝を曲げることも、階段の上り下りも出来ない状態になった。手術をしてもかえって体に負担がかかるだろうとのことで、痛み止めを服用するしか手立てがない。俳優としての将来に絶望する程だった。
そんな折、先輩が勧めてくれたのが水中ウォーキング。早速、藁にもすがる思いで近くのプールに通い始めた僕は、松葉杖をついてようやくプールサイドまでたどり着いた交通事故後遺症の人が、スタッフに助けられてプールに入るや、他の人たちと同じように楽々とプールを歩きまわる様子を見て驚いた。
胸まで水に入ると浮力によって体重は3分の1に。その分、故障した部分にかかる体重が減り、痛みもやわらぐ。水中運動は、痛みを少なくして筋肉を強くし、その筋肉で故障した部分を支えることができるようになる。
1日45分のプログラムを週5日続けた。その結果、1カ月が過ぎたころから目に見えて効果が現れ、3カ月でほぼ普段通りの生活と運動ができるようになった。以来10年間、アクアエクササイズを続けている。
水中運動は足腰を丈夫にして、転ばない体作りに向いている。転んで寝たきりにならないよう、僕は仲間に「40過ぎたら転ばぬ先の水中ウォーキング」を強く勧めている。
プールは夏の季語だが、僕は1年中プールの中でアクア・スプラッシュを上げている。
またひとつ橋の腹見る船遊び 輝
木下順二作「子午線の祀り」の伊勢三郎を演じる筆者・俳優佐藤
輝
2006.7.25 掲載分
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