見ぃつけた! ネジバナ!
うわおぅっ! っと声を上げて喜んだのはバルコニーの思いもかけない一鉢。
何年か前までは確かにネジバナの小さな鉢があったのに、いつの間にか、他の鉢からシダの胞子が落ちたらしく、シダの鉢になっていた一鉢。
そこにすうーッと一本のネジバナが色鮮やかな花を咲かせている。
何か、とても幸せな気分。嬉しくなって写真を撮った。
先月行った静岡県舞台芸術公園の楕円堂前の芝生にもたくさんのネジバナが咲いていた。
でも1週間後に行ったら、芝生が奇麗に刈り取られていて、可憐なネジバナたちの姿は消えていた。
輝 ☆彡 2012.7.3
駿河の国は茶の香り
6月24日と一昨日7月1日、2週続けて日曜日に駿河の国へ。
緑一色のこの季節、静岡は茶畑が美しい。
日本平の山の上に広がる舞台芸術公園にも茶畑があって、その間に点在する劇場で、6月2日から7月1日開催の「ふじのくに→←せかい演劇祭」の3公演を楽しんだ。
静岡県はスゴイ!
15年前に日本で初の公立文化事業集団SPAC(静岡県舞台芸術センター)を組織し、東静岡駅南口に作った静岡芸術劇場と共にこの野外施設を作って、継続して新しい企画を立て、運営している。文化を育てて作品を創造し世界に発信している。
それを支える情熱をもった人たちが大勢いることが素晴らしい!
「自然との共生・調和」をコンセプトにした舞台芸術公園には客席400の野外劇場「有度」、晴れた日には正面に雄大な富士の全貌を望める畳敷きの回廊とラウンジから黒塗りの階段をつづら折りに下りると宗教的な静謐空間が広がる110席の屋内ホール「楕円堂」、稽古場を兼ねた110席の「BOXシアター」、他に出演者やスタッフが泊まれる研修交流宿泊棟や稽古場棟が、食堂棟の「カチカチ山」、本部棟と共にある。
2004年から05年に世田谷パブリックシアターと全国で公演した『子午線の祀り』(観世榮夫演出)で共演した日下範子さんから、「4月から静岡で暮らしながら稽古中」との知らせを貰って6月24日に観劇したのはSPACの芸術総監督・宮城聰演出によるインド叙事詩を基にした『マハーバーラタ
〜ナラ王の冒険〜』。
奧が野外劇場「有度」入口。手前の本部棟前では開演1時間前からお茶のもてなしが。さすが茶どころ静岡の美味しいお茶。聞けば、全国で8割も生産されている銘柄の「やぶきた茶」はこの舞台芸術公園の北に接する谷田地区で明治41年に誕生し、いただいたお茶はその記念茶畑のお茶だと言う。
開演30分前、チケットに記された番号順に並ぶ。全席自由席の311番。はたして舞台全体が見える席に着けるかが心配。
入場順番が遅かった割には、舞台正面も演奏隊も見える最高の席に着席。
宮城さんが「ク・ナウカ」時代から緻密に演出し稽古を積み重ねて何度も公演してきた作品だけに、気持ち良いほどに洗練され、大木の葉の繁りを背景にした野外劇場の空間の広がりが時代も場所も超越したイメージを見せてスケールの大きな世界を心ワクワクと感じさせてくれた。
素晴らしい舞台に感動した。
終演後の舞台上で宮城聰さん(右)と演劇評論家・長谷部浩さん(中央)によるアフタートーク。
あれだけ緻密な演技と連携を要求された出演者たちの稽古の苦労は並大抵ではなかっただろうと、演技する者として想像に難くないのだが、そんなことを感じさせない余裕とリアリティーがあって、安心して楽しませてもらった。
終演後、食堂棟「カチカチ山」にはフライドチキン、おでん、スリランカカレーなどのコーナーが作られて「フェスティバルber」に変身、出演者やスタッフとの交流の場所になった。SPAC芸術総監督・宮城聰さんと舞台の感想を語り合う。
東京に帰ってくると後を追うように野外劇場「有度」での次の公演への誘いのメールが届いた。
ダンサーで演出家、振付家の黒田育世さんが振付のダンスカンパニー「BATIK」による『おたる鳥をよぶ準備』。
公演案内に書いてある「おたる鳥」の「おたる」は「満ち足りて体が動き出すこと」で「おどる」の語源、との解説に魅かれて、再度静岡に見に行くことにした。
「満ち足りて体が動き出すこと」とは思いが満ちて体が動き出すことだし、思いが詰まって詰まってどうしても歌わずにはいられなくなるミュージカルの歌の表現にも通じる。そんな肉体表現の極みに期待した。
同じ日の昼に楕円堂で韓国の伝統楽器コムンゴとカヤグムによる『ソウル・オブ・ソウル・ミュージック』公演があることを知り、韓国音楽は好きだし前回は楕円堂の回廊を覗かせてもらえたもののホール内を見ることは出来なくて残念に思っていたので、これは二重のチャンスとチケットを頼んだ。
静岡にも美味しいそば屋があった! 舞台芸術公園に向かう途中、高速道をくぐる手前左側にある風情ある店構えの日和亭。こだわりの三色盛り。
長期予報では曇りだったのに、その後、悪化し、1日は曇りから雨に。
ダンスカンパニー「BATIK」の10人のダンサーは冷たい雨の中で、素晴らしい肉体表現を見せてくれた。
第1部の2時間30分、雨の中でほとんど休み無しに踊るダンサーがいて、高いイントレの上で雨に打たれながら動かずにいるダンサーがいて、舞台中央に立ちっぱなしのダンサーがいて、そして舞台は変幻自在に変化し続け心象世界を表現する迸るような肉体の躍動。
本当に踊ることだけを喜びとして、自分の使命として、ストイックに踊り続けた10人の解放された肉体賛歌。
柔軟に鍛えあげられた身体と高度に磨き上げられたダンステクニックの素晴らしさに言葉が出ない。
観客は傘はさせないので薄いビニールコート一枚で雨の中に座り続け、じっと舞台を見つめる。
どこがどうなるのか分からないが、手を引っ込めて袖の中に入れているのに雨が伝って来て手を濡らす。また、時折強く降る雨は、フードから帽子に伝わり、大粒の滴になってばさりと落ちる。
コートの表面を流れる冷たい雨に体温も奪われて身も縮むが、薄い衣裳がびしょびしょに濡れて体にまとわり付いて動きにくく、雨水が溜まっている舞台で叫び踊り続けるダンサーたちを見れば、観客も弱音などは吐けない。
ダンサーになることを夢見て4歳や7歳からバレエを始めた人たち。今まさにそのダンサーになって、こうして踊っていることが「満ち足りて体が動いていること」だと肉体が叫んでいるように感じられた。
踊るとはこう言うことだと納得させられた素晴らしいダンスパフォーマンスだった。
輝 ☆彡 2012.7.3